最近よく耳にする安楽死とは?安楽死と尊厳死の違いをわかりやすく図解
安楽死という言葉を聞いたことがありますでしょうか?
社会保障費の圧迫や在宅介護など、高齢社会の課題の話になると必ず話題に出る「死に方」「看取り方」のお話。
この記事では、「安楽死とは何か」について、混乱されがちな「尊厳死」との違いを含めて説明していきます。
目次
1. 安楽死とは?
「積極的安楽死」と「消極的安楽死」
一般的に、安楽死には「積極的安楽死」と「消極的安楽死」があると言われています。
「積極的安楽死」は致死薬を注射して患者を即死させる、つまり死期を早める安楽死に対して、「消極的安楽死」は死期を早める行為はせず、死に至るまでの苦痛をやわらげる以外の治療を行わないことを指します。
尊厳死との違い
一方で、”尊厳死”という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
一般社団法人日本尊厳死協会の「リビングウィルQ&A」では、尊厳死を以下のように定義付けています。
尊厳死とは、不治で末期に至った患者が、本人の意思に基づいて、死期を単に引き延ばすためだけの延命措置を断わり、自然の経過のまま受け入れる死のことです。本人意思は健全な判断のもとでなされることが大切で、尊厳死は自己決定により受け入れた自然死と同じ意味と考えています。
ここまで見ていただければわかるように、安楽死の言葉自体、明確な定義はまだされておらず、文献、日本尊厳死協会の定義付けを見る限り、以下のように整理されます。
図式化して「何を持って延命治療とするのか」という新たな議題が生まれますが、安楽死(積極的安楽死)とするかの判断は、死期を意図的に前倒すか否かになるでしょう。
※本メディアでは、上記で示すところの積極的安楽死を安楽死とし、記事を執筆しています。
2. 安楽死の具体的な方法
安楽死をするに当たって、安楽死するための特別な毒薬が使用されているわけではありません。
手術で使われる筋弛緩剤や睡眠薬、鎮痛剤を一定量以上、使用することで死に至ります。
国によって手法は異なるものの、医師の注射もしくは本人自らが点滴を入れる、規定量を超えた薬が入っているとわかっているクリームを食べる、などの手法を取っています。
死に要する時間は、たったの1分〜5分。
もちろん、確実に死ねるというわけではなく、「なかなか死ねない」「痙攣を起こした」などのトラブルも起きているのが実態のようです。
3. 日本では認められているの?
結論から申し上げますと、日本では法的に認められていません。
国内での安楽死について、主たる安楽死裁判は7つあるのですが、安楽死の違法性が阻却される条件が示された2つの判例を紹介します。
①山内事件に対する名古屋高裁判決(1962年)
山内事件とは、1961年に愛知県に住む20代の長男が寝たきりの父親に薬物を飲ませて死なせた事件です。
父親は脳溢血で倒れてから一時回復を見せたものの再発し、少しでも動くと激痛が走る状態で5年間寝たきりでの生活が続きました。
「早く死なせてくれ」
と悶絶する父親を前に、息子は有機リン系の殺虫剤を牛乳に入れ、何も知らない母親はその牛乳を父親に飲ませたため、父親は有機リン中毒で死亡。
判決は「親を救いたい」という長男の心情を鑑み、殺人の中でも刑罰の重い第一審判決を破棄し、嘱託殺人罪で懲役一年、執行猶予三年の有罪を言い渡すというものとなりました。
この判決は日本で初めて安楽死容認の要件を示したと言われています。
②東海大付属病院事件に対する横浜地裁判決(1995年)
東海大医学部付属病院で、医師が末期がんの58歳男性患者に塩化カリウムを注射して死亡させた事件です。
患者はがんで意思表明ができない昏睡状態にあった中で、
「苦しむ姿を見ていられない」
「楽にしてやってほしい」
と家族より懇願される日々が続き、追い詰められた医師は、再度懇願してくる長男の前で塩化カリウム20ミリリットルを注射し、患者を心配停止にさせ死亡させました。
判決は患者自身が昏睡状態にあり「耐え難い苦痛」を感じられる状態になかったこと、本人が安楽死を要請しているかは確認ができないため、無罪を主張する弁護側の主張は退けらました。
この判決では、前に述べた名古屋高裁判決にはなかった「患者の自己決定権」という概念が安楽死の要件として確立したと言われています。
「誰が1人の最期を決められるのか」という大きなお題を世に知らしめた判決です。
4. 諸外国との比較
世界には安楽死ができる国が7か国あります。
- オランダ
- スイス
- ベルギー
- ルクセンブルグ
- カナダ
- オーストラリア(ビクトリア州)
- アメリカ合衆国(ワシントン州、オレゴン州、モンタナ州、バーモンド州、ニューメキシコ州、カリフォルニア州)
その中でも有名なオランダとスイスの事例について、ここでは簡単に紹介します。
オランダの事例
オランダは世界初の「安楽死法」が制定された国で、毎年2,000~3,000人(年間死者数の2~3%)が安楽死を選択しています。
オランダでは、安楽死パスポートというものがあり、NGOである自発的安楽死協会(NVVB)に登録すると取得することができます。
日本だとドナーカードを思い浮かべてもらえれば、イメージが近いのではないかと思います。
発行したパスポートはお財布に入れて持ち歩くようです。
パスポートにはどういう場合であれば人間の尊厳がなくなった状態であるかを定義する諸条件が記載されており、それにしたがって必要があれば安楽死を行います。
スイスの事例
単純に安楽死が合法なだけではなく、世界で唯一、外国人の安楽死を受付ているNGO団体があるスイス。
その名は「DIGNITAS(ディグニタス)」
団体の会員になれば、所定の費用を払うことで団体による自殺幇助(ほうじょ)が受けられます。もちろん、本人の意思がはっきりしていること、難病を抱えていること、などの条件はありますが、条件さえ満たせばスイス国籍外の人もスイスで安楽死できます。
そのため、世界各国からスイスに安楽死をするために人々が集まっています。
現在は、DIGNITAS(ディグニタス)だけでなく、lifecircle(ライフサークル)という団体もあり、いずれかの団体に申し込む必要があります。
より詳しい情報を見る
→ 安楽死をしたいならスイスに行くしかない?外国人の安楽死容認しているlifecircleに行ってきた
5. 幸せな死とは
「痛みが消えれば、『よき死』が迎えられるわけではない。高齢で、『もう十分生きた。これ以上は無意味だ』と考える人が死を望んだ場合、それを認める社会にすることが我々の目標だ」
by オランダ自発的安楽死協会会長 ヤコブ・コンスタム氏
オランダとスイスの安楽死に置いて、大きな違いがあります。
それは、「人間の尊厳」を失っているという状況を自分で判断できるか否かという点です。
基本的には「人間は生きるべき」という価値観は同じなのですが、スイスは現在の医療技術では手に負えない状態である必要があるのです。
オランダとスイスの安楽死に関する共通点と相違点はまとめると以下のようになります。
- 共通点
- 本人の判断が衰えておらず、明瞭な意思によって実施されること
- 医師が何かしらの形で介在していること
- 相違点
- 改善見込みのある治療法が他になく痛みに耐えられない場合:スイス
- 本人が「人間の尊厳を失った状況」を定義しそれに反した場合:オランダ
6. 安楽死について考える
いかがでしたでしょうか?
安楽死についての理解は少しでも深まりましたでしょうか。
- 安楽死を「苦痛からの解放」と捉えるのか「本人の意思尊重」と捉えるのか?
- 何を持って「人間の尊厳」とするのか?
- 医療技術による延命は「幸せな死」をもたらすのか?
- 本人に意思がない場合、何を尊重するのか?
安楽死の是非について考えることは、人間の死について考えること、ひいては人間の生について考えることだと思っています。
いずれも答えのあるものではない問いではありますが、少しでも参考になれば幸いです。
より詳しい情報を見る
→ 「安楽死」について理解するために読んでおきたいオススメ書籍5選
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